2連泊したい洛北の別荘〈鷹峯①〉

芸術家の理想郷

京都の喧騒から車で離れた洛北・鷹峯。私の別荘「ハーベスト鷹峯」は、ここにある。たかがみねと読みますよ。霧ヶ峰はエアコン。

この丘陵地一帯は、江戸初期に芸術家・本阿弥光悦が築いた理想郷「光悦村」の跡地として知られている。いや、あんまり知られていないかもしれない。

刀剣研磨の名家に生まれた光悦は、家康から譲り受けたこの地で、陶工や蒔絵師、書家、茶人などありとあらゆる芸術家を集めて芸術の村をつくった。そこは、暮らしそのものが芸術であり、そこにある庭や建築、器のすべてが、“用の美”を語っていた。

今の京都のように伝統産業が美術館化や博物館化することなく、ちゃんと、生活の中のものとして生きていた。まさに私が思い描く理想郷でもある。

太閤秀吉さんの御土居

鷹峯の麓には、秀吉が京都を囲うように築いた御土居'(おどい)の遺構が残る。余談だけど、京都の人は秀吉が大好きだよな。
京都人が好きなもの。秀吉、琵琶湖疏水、武田五一?あとはなんだろう。

御土居という土塁についてものすごくざっくり説明すると、まちの中心部を外敵から守るための防塁だ。いわゆる洛中洛外、この塀が京都の内と外を長らく分けてきた。

この高低差が鷹峯の風景であり、東急ハーヴェストクラブ京都鷹峯の敷地も、まさにその御土居の地形に寄り添うように建てられ、高低差を備えている。

光悦の夢を継ぐ庭「しょうざんリゾート京都」

ホテルが位置する「しょうざんリゾート京都」は、かつての光悦村の面影を今に伝える広大な文化リゾート。ここには料亭、茶室、アートギャラリー、結婚式場が点在する。この結婚式場がね。なんというかこう、教会が、目立つのよね。とても味わい深く存在感を放って存在しているので、ぜひ見に行ってほしい。見たらきっと、「ああ、なるほど」ってなると思う。

さらに北に行けば、ヒルトン最高級クラスのラグジュアリーホテル「ROKU KYOTO」が、そしてさらに奥へと進めば、あの「アマン京都」様が鎮座する。ROKU KYOTOは同じしょうざんの敷地内にあるので自由に歩いて散策できるけど、アマンは離れているし、なんせ怖い。

ちなみに「しょうざん(松山)」の名は、古くからこの地を指す雅称。戦後、造園業を営んでいた初代がこの丘に料亭を開き、やがて庭園文化を中心とした複合施設へと発展させたそう。
京都のちょっと上の世代の人は、「ボーリング場があったとこ」と呼ぶ。さすがの文化リゾート。光悦もびっくりだろう。

洛北、さまざまな境界のホテル

前置きが長くなったが、ハーベスト鷹峯は、ひとりで2連泊したい宿だ。一応会員制リゾートホテルとなっているが、予約すれば宿泊はできる。

正式名を「東急ハーヴェストクラブ京都鷹峯&VIALA」という。長いので私はいつも「鷹峯のハーベスト」と呼んでいる。
一部通常棟とVILLAは全室露天風呂付きだが、ちょっと奮発してでも、ぜひ露天風呂付にしてほしい。そうしないと、ここに来た意味がない。

丘の上に建つVILLA棟と、麓に広がる通常棟を結ぶのは、緩やかなケーブルカー。これまた日本一短いんじゃないかと思うほど短いケーブルカーだ。所要時間は多分1分。ちなみに日本一短い鉄道は鞍馬寺に上がる鞍馬山ケーブルで、所要時間2分ほどである。ケーブルカーとしてはこちらの方が短い気がする。

かつて京都を囲った“境界”をまさに行ったり来たり。洛中洛外、生と死…京都は境界の街だ。

ベストシーズンは年2回

桜も真っ赤な紅葉ももちろんいいけれど、新緑の5・6月と底冷えの1・2月も捨てがたい。というかその2つの時期が最高だと心から信じている。

まずホテルに向かうところから、別荘への旅は始まっている。宿に着いたらもう一歩も外へ出たくないので、スーパーやコンビニで夕食と夜の酒&つまみを買い漁る。多すぎるに越したことはない。なんせ2連泊だ。ゆっくり消費すればいい。
そしてバスに揺られること、30分。比叡山の形が、普段見ている形とはだいぶ変わって、一層かっこよく、厳かになる。

VILLA棟には最寄りのバス停があるけど、私はわざわざ下のしょうざん側から石畳を歩いて向かうのが好きだ。このランウェイをゆっくり歩いていると、深く呼吸ができる感じがする。
水の流れる音。頭上に広がる青もみじ。その隙間からきらめく太陽の光。御土居を横目に、高鳴る気持ちを抑え、石畳を踏みしめる。

好みはあるけど

まず露天風呂は必須として。

部屋は私がよく使うのは和洋室と洋室があって、一人で過ごすには和洋室の方がいい。なぜなら一人で晩酌がしやすいから。いや、二人で晩酌するにも和洋室の方がいいか。洋室は、おしゃれだけどちょっと使い勝手が悪い。

部屋は比叡山側と鷹峯側がある。初夏は鷹峯の緑が生命力に溢れているし、冬は凛とした比叡山を望むのがいい。

不思議な大浴場

チェックインしたらまずケーブルカーで通常棟におりて、大浴場の一番風呂に入る。夕食前は混むし、夕食後はもう酩酊で入れない危険がある。
ちなみに初春には、ケーブルカーからは菜の花と梅が望める。


「美肌の湯」と言われ、やさしい湯あたりが特徴の天然温泉。
2種類の大浴場は、男女入れ替え制。 「地‐Kuni‐」は竹林を前にインフィニティぽい作りで、奥に進むと妙なカマクラがある。
一方、「宙‐Sora‐」はたまごみたいな天然石がドーンと鎮座していて、現代アートの心得が全くない私は、見るたび不思議にな気持ちになる。どう楽しんだらいいのかよくわからないままぼんやりと眺めている。

湯上がりはアイス?お酒?

大浴場を出たところにある自販機でアイスを食べながら足湯で竹林を眺めるのも良い。なお断念して部屋に転がり込むことも多い。ここは昼より夜の雰囲気がいいので、出直してもいい。
ホテルまでの道中で買い出しが不足しているようなら、品揃えが妙に豊かな売店で日本酒とおつまみを追加することもある。

もし仕事に多少の余裕があれば、ラウンジで時々開催される、いや未だかつて一度しか出会ったことがない、ハッピーアワーのカクテルをすする。このハッピーアワー、なんと1杯500円でビールやワインを飲むことができた。あれは誠に良かったな。ホテル関係者の皆様、ご覧になっていたらお願いします、また開催してください。

ふと切なくなる市街の夜景

部屋に戻る前に、エレベーター前から見える市中の夜景になんとも胸がきゅうっとなる。
こういう時は、誰かが隣にいるのもいいなと思ったりもするけど、私にはこのあととびきりのチートタイムが待っている。その自由と引き換えに誰かが隣にいる必要はあるのかなと思案しながら部屋に戻る。

さあ、ここからは私だけの自分勝手でとびきりわがままな時間だ。まず夕食を食べて腹ごなしをし、仕事をさばく。
先般のエレベーターを出たところに電子レンジもあるから、チンするものも安心して買えるからありがたい。
いろんなホテルを巡って気づいた。良いホテルには大体、電子レンジがない。でもこういう例外を見つけると、嬉しい。

このあとは楽しいものが控えて渋滞しているので、仕事もそれはそれは捗る。それに、目の前に広がるのは市街から見るのとは違った形の比叡山やら鷹峯の木々やらで、もう穏やかな気持ちでつまらない作業もこなせる。意地悪なメールにもニコニコと返しちゃう。

一人きりのわがままチートデイ

夜もふけた23時過ぎ。諦めがついて、肩も首もバキバキになったところで、いよいよ酒盛りである。

露天風呂に腰くらいまでつかりながら、ハイボールかレモンサワーを飲む。キンっキンに冷えてないと嫌なので、氷もたくさん部屋に持ってきて、グラスに目一杯氷を注いで飲む。ポイントは、氷で薄くなっても大丈夫なように、「濃い目」を買うことだ。
お腹が空いていればスナック菓子も自由に食べちゃうし、ワインもかち割りで飲んじゃう。
足だけお湯につけてパシャパシャしたり寒くなったら首まで浸かったり、疲れたらいったん上がって裸のままベッドでゴロゴロしたり。あ、もちろんタオルは敷いてます。

これを5往復くらいした末に、ゴロゴロの延長でそのまま寝落ち。正味3時間ほどの大宴会だ。夜明けまで泥のように眠る。

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