
変遷を教えてくれるタクシー
以前住んでいた家は、二条城が真北にあった。
部屋からも二条城のお堀が見えて、6階の屋上からは敷地が少しだけ見下ろせて。なんだか不謹慎な建物だなと思ったりもした。

私の部屋は建物の最も南西、竹屋町通沿いの西端なので、真隣に二条公園という大きな公園があった。タクシーで帰る時、運転手さんに場所を伝えると大体返ってくるのが、
「学生寮だったとこやな」。
そうです、河合塾二条寮でした。Googleマップにもまだその文字残ってます。
「NHKがあったとこやな」。
そうです、なんでも昔立てこもりがあったとか?
「刑務所やったとこやな」。
あなたその時生まれてないでしょ。
「鵺が出る公園のとこやな」。
それ京都の子がみんな言いますね。

鵺が出る公園って?
鵺というのは、頭は猿、尾は蛇、手足は虎、という怪物。
二条公園の歴史は平家物語まで遡る。京都の歴史というのは本当にすぐそういう時代にまでたどりつくからすごいな。
平安後期、源頼政が鵺退治を行い、池で血のついた鏃(やじり)を洗った池があると言われているらしい。
話は逸れるけど、どうも鵺伝説というのは京都にいくつかある。
鴨川流れる三条大橋の近くにある、大将軍神社東三條社は”鵺の森”と呼ばれていた。そこは道長の父、藤原兼家が暮らした邸宅跡だ。だが応仁の乱以降に荒れ果てていったという。
そもそも怪談というのは。昔何もなかったところではなく、昔繁栄して今は廃れた場所に発生しやすいという。病院とか遊園地とか廃墟が怖いのも、そういうことらしい。
人は、何もないところを怖がるんじゃない。かつて人がいたところ、栄えたところが姿を変えていることに怖さを覚えたり何かを見出したりする。
という話は、階段文化研究家の井上真史さんが教えてくれた。
霊感ゼロでよかった!
以前、同僚が私の家に遊びに来た時に言った。
「この辺、あんまり良くない場所ですね。私、霊感あるのでわかるんです。」
確かにそうかもしれないけど、えらい失礼だなアナタ。私がここを終の住処にしようと思ってたらどうすんの。
幸い私は霊感が全くないので、この地には何も感じない。
なおこの辺の道路の延び方がちょっと変なのは刑務所時代の名残らしい。すごい歴史を積み重ねた場所だな。
うん、やっぱり霊感がなくてよかった。

昭和から未来へ続く遊具
この公園は便利だ。
お手洗いもあるし、ベンチと机も豊富だし、遊具がなんだかすごい。調べると、昭和天皇即位の記念に開かれた博覧会の会場に設けられた児童公園が元になっているらしい。
ネットでできたジャングルジム(ザイルクライミングと言うらしい)とか、お山にくっついた立派な滑り台とか、不思議な遊具(コンビネーション遊具と言うらしい)がある。
これがまた滑りが悪くて、ギコギコいう。それを京都の友人に愚痴るとこれまた皆、「油さしたげた方がええんちゃう?」と口を揃えて言うんだよな。これも京都人のDNAだと思う。

24時間、時が流れていく音がする
この公園の1日の移ろいが好きだ。
朝、6時頃になると何やら中国民謡っぽいメロディが聞こえてくる。住み始めた頃は気のせいかと思って窓を開けると、遊具の前で太極拳をしているおじいちゃんがいる。
ほどなくラジオ体操が始まる。おじいちゃんおばあちゃんが集まる。
そして私が仕事を始める10時頃になると、近くの幼稚園か保育園の子たちがやってきて、もうそれはそれは、それは元気だ。秋には運動会(とそのリハーサル)も開催される。

だんだん年齢が上がっていく午後
お昼ご飯を食べ終わってうつらうつらしていると小学生がやってきて、ドッチボールやら鬼ごっこを始める。
夕刻になるにつれて中学生や高校生っぽい大人っぽい子たちも増える。女子校出身の私には想像できないような、一緒にバレーボールなどをして遊んでいる男女グループを見て、勝手に眩しい目で見てみる。多分そこには一抹の嫉妬がある。
夜になれば、飲み会終わりの若いサラリーマンの時間だ。これが鬼門で、もう0時過ぎまでどんちゃん騒ぎ。あの遊具で一番遊んでるのは、多分この時間帯のこの人たちです。遊具の利用率を統計とったら多分、平均値は20歳くらいじゃないかと思う。

「睨んでないよ!」深夜の珍事件と珍友人
ある月が綺麗な深夜、一時過ぎのこと。
公園では例の如く若い男女グループが遊具で遊んでいる。
私は、えらく思い悩むことがあって西の空高くに登ってきた月を窓からじっと見ていた。
夕陽が唯一のご褒美と書いたけど、そうだ、夜更けに見える月も西側の部屋のご褒美だった。

ふと、遊んでいた一人がこちらを指差し、「え、こっち見てない?ほら…」と言った。
すると他の皆様も代わる代わるにこちらを見上げて、「え、やば…」「こわ…」などと言いながら退散していった。
近所の人が騒音を苦々しく睨んでいると思ったのだろうか。申し訳ない。でもまあ、1時を過ぎたら誰も見てなくても静かにした方がいいと思うよ。
そしてそんな時間帯、同時に20代のカップルや訳ありカップルっぽい人たちもちらほら見かける。この公園、家の住人曰く、アオカンスポットでもあるらしい。奇特な友人は、夜中に青姦中のカップルを探して徘徊していた。いやあんたらが一番怪しいよ。

二条公園は眠らない
この公園のあまりの賑やかさに、心底うんざりした時もあった。
でも、今は懐かしく思い出す。私もやかましいことこの上ないし、33年間周りにさんざん迷惑をかけてきた。そして、これからもきっとそう。
この公園は、これからもきっとこうやって人の営みを続けていく。
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