店長 佐藤智子さん

HOTOKI
私の丁寧じゃない暮らしに、HOTOKIの青

岩倉という孤高の北限

岩倉から見る比叡山は美しい。こと、真冬は。
国際会館駅を地上に上がってすぐ、振り向くと聳える比叡山。
ここまでくると街中よりぐっと温度が下がる気がするが、比叡山は別格に美しいと思う。

そこから西に歩き出すとすぐ見えてくるのが、私の生涯の戦友である片岡さんが四代目を担う自転車店〈vigore〉。フレームビルダー見習いとして店で頑張る片岡さんの姿を見つけては、ガラスの壁にずんと顔を近づけて片岡さんを笑わせるのが趣味だ。そう、悪趣味だ。

そして一言二言、言葉を交わしたらvogoreからさらに西へ進み、片岡さんと時々お茶をしばきにくる喫茶店ドルフも越えて、歩き続けること7分ほど。

海外の高級車たちが連なる住宅地の中に、〈HOTOKIは静かに佇んでいる。


こだまみたいな妖精が迎えてくれる工房

トトロに出てきそうな、いやでも多分出てこない可愛い建物。五代目清水六兵衛の孫、清水久さんの工房である。

TOKINOHA〉という清水焼の超人気ブランドを手がける清水大介さんのご実家でもあり、久さんはお父様に当たる。

TOKINOHAは、”くらしを味わうための清水焼”をコンセプトにして大介さんが始めたブランド。

TOKINOHAの器との出会いは、烏丸御池にある人気イタリアン〈fudo〉さんだった。2年ほど前、初めて人に連れて行ってもらった時の衝撃たるや。
ここのイタリアンはものすごく創作性があって、こだわった食材も私の好みそのもので、いわゆる字面から美味しいタイプ。見た目も鮮やかで時にアクロバティックで、そして何より美味しい。
そのおいしさを完成させているのが多分、うつわ。一点一点があまりに素敵なのでどこのものかオーナーさんに聞くと、TOKINOHAさんというところでオーダーメイドで作ってもらっていると教えてくれた。


TOKINOHAは山科にあって、体験レッスンや販売店、ドリンクスタンドもあるフラッグシップともいうべき本拠地。HOTOKIはその姉妹店的存在だ。

でも私は比叡山も見たいし片岡さんともお喋りしたいので、いつも岩倉にあるHOTOKIに行く。そしていつの日か、店長の佐藤さんに会いに行くようになっていた。

淡い色を纏った店長さん

ここではTOKINOHAのアイテムも買えるし、ろくろ体験や手捻り体験、お教室通いもできる。


佐藤さんはいつも私を優しく出迎えてくれる。千葉出身で、京都の陶⼯高等技術専門を出た女性だ。
色を当てるなら、「灰桜色(はいざくらいろ)」。桜色の花びらのような淡紅色に、灰色がかった落ち着いた、少し渋みのあるくすんだ色。私のようにベラベラお喋りするタイプではないけど紡ぐ言葉からうつわへの愛情が静かに伝わってくる。

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よく1階では体験をやっていて、私が2階で買い物をしていると、久さんの柔らかい声が聞こえてくる。
私が体験させてもらったのは、ろくろ体験と手びねり。ろくろ体験ではマグカップとご飯茶碗、小鉢を作らせてもらい、手びねりではお皿を作らせてもらった。


土を触るのは冬は寒いから夏がいいとよくいうけど、私は意外と真冬にやるのが好き。芯まで冷たいような、指が冷えていくような感覚。指と土が触れ合う感覚。ああ私土を触っているなあ、と思わせてくれる。

青、藍、緑、翠、いろんなブルー

愛情込めて作ったこのマグカップ。実はちょっと大きすぎて珈琲が飲み切る前に冷めちゃうし、縁が太すぎて飲みにくい。食いしん坊な私サイズだと姉に指摘された。でも、この青がどうしようもなく好きだ。

HOTOKIの、青というか緑というか、そんな類の色がとてもいい。ティファニーブルーのような爽やかで明るい、春の朝みたいな青。サックスブルーのような夏の浅瀬みたいな透明感のある青。もう少し深海っぽい、落ち着いた深みのある青…いろんな青みどりにワクワクする。ワクワクと言うより、胸の奥からじーんと「いいなあ」って気持ちがじんわり染み出してくる感じ。

考えてみれば日本の青はいろいろあって、浅葱色、水浅葱、甕覗…キリがない。私の顔にはくすんだ青や緑が似合うと思っている。自分のパーソナルカラーは知らないけど、顔が割と派手でうるさいと言われる。25歳になるくらいまではピンクとか白い服が好きだったけど、多分青系の方が馴染むのかもしれない。


ここ7年くらい、春のトレンチコートは絶対にサックスブルーと決めている。今まで無くしたり(コートをなくすのは意味がわからないとよく言われる)、汚したりするたびに、青のトレンチコートを何度も買い直している。

家でうつわを持たない暮らし。だったはずなのに

そもそも私は外でワインを飲みながらビストロを食べることに至福の喜びを感じる。家での暮らしをそこまで追求しない。鴨川や東山を見ながら快適に全力で仕事ができればいい。夢に向かって毎日起きてる時間全て、ひたすらにがむしゃらにやるだけ。丁寧な暮らしなんていらない。
そう、思っていた。

でも、ここの器を手にとった時、心から”ほしい”と思った。私の暮らしのそばにおきたい。京都のこの街での私の暮らしの近くにあってほしい。この子達と暮らしたい。私のこの、粗雑で日々瀕死状態のような暮らしに、寄り添ってくれる気がした。

贈り物の鉄板2つ

私が京都で愛するものたちの中で、大事な人に贈ると決めているものがいくつかある。その一つがここの、一輪挿しの壁掛け花瓶「TUKU」シリーズ。

新たな生活を始める人やお家での生活を楽しんでいる人に贈る。鉄板はブルーの縦型。私の家でも使っている。HOTOKIらしい深い青が、暮らしに落ち着きをくれる。白壁によく映えるし、黒や茶色い壁でも美しさが際立つ。

でも人によっては、あたたかみのある白とか黄金色の丸っこいタイプもいい。その人の笑顔を思い浮かべて、その人の暮らしを勝手に想像して、似合いそうなものを買うのが楽しい。

それからずっとほしかったのが、ころんと可愛い飴ちゃんのような正方形の箸置き。これもめちゃめちゃ可愛くて一目惚れしてずっとほしくて、行くたびに触っていた。至極迷惑である。

でも、共有の食器が用意されてるシェアアパートでの暮らしにはどう考えても出番がなかったんだよな。

この度引っ越して、フォークやナイフも置きたくて、検討に検討を重ねた末に、細長い長方形のものにした。これも、四色展開のところをあえて青と緑にした。この春にようやく私の手元に来て、食いしん坊な私の食卓の隅でキラキラ輝いている。

手に馴染むにも程がある

こないだ行って目に止まったのが、大きめのおちょこ。これに日本酒を入れたら、ぐい呑はいらなさそう。ミニマリストで飲兵衛の私にぴったりじゃないか。

あと行くたびにこれまた絶対手にとるのが、手のひらの形に馴染むマグ。親指部分が凹んでて、つい持ちたくなるこのフォルムよ。これもやっぱり、東山の夜明けみたいな藍がいい。釉薬のかかり方が一点一点違うから、同じ商品でも違う商品なのかってレベルで色合いが変わるし、あげたい人のイメージで選ぶから毎回楽しい。デスクワークが多い人にプレゼントするのが趣味だ。
4月に見つけた母の日限定カラーのピンクが可愛すぎて、なんというか、優しい桜色。買いたいんだけどプレゼントする相手がパシッと浮かばない。自分で使うにはちょっと、もったいない。


そして、金継ぎの紋様が可愛いお皿。金継ぎは奥様・祥子さんのご担当だ。でもこれは電子レンジと食洗機に入れられないからちょっと厳しいなあ。いつか丁寧な暮らしが手に入ったら手元におきたい。
祥子さんの絵付けはとってもあったかくて、心がほぐれる。ゾウさんとか動物の絵のお皿は、人が来た時にちょっとお菓子とか乗せて出したくなる。

秘密の宝箱みたいなコーナー

それから、あまり大きな声では言えないけど。
HOTOKIには限定のアウトレットコーナーがあって、通常品とほとんど遜色ないアイテムがお手頃に購入できる。そこのラインナップがまた充実していて、もう楽しのなんのって。

もうずっと手にとっては悩んでいられる。アウトレット品と言っても、ちょっとカーブがいつものよりきついとか、筋の場所がいつもとズレているとか、そんな程度。自分で使う分には全然気にならないし、自分では積極的に手に取らないものと出会う機会にもなるし、そして何よりえらくお得である。定期的に入れ替わるので飽きることもない。佐藤さんには言えないけど、私はこのコーナーを宝箱と心の中で読んでいる。

ちなみにこのコーナー、久さんの秘蔵のレコードたちの中に並んでいて、圧巻である。

丁寧じゃない暮らしに寄り添って

シェアアパートから引っ越した今は、HOTOKIの器に少しだけ囲まれている。

コーヒーメーカーのコーヒーを、やや大きすぎるマグカップに淹れてズズズっと啜り、埼玉の母が焼いて送ってくれたクッキーを手ひねりの分厚いお皿に並べる。洗うのが面倒なので小袋からはもちろん出さない。

ぬくもりのある黒いお茶碗に、チンした冷凍ご飯を入れて、白濁としたちょうどいい小鉢には買ってきたお惣菜を並べる。仕上げに、下鴨神社で買った干支のお箸、羊が描かれた可愛い箸を、箸置きにそっとおく。

TOKINOHAの器は私たちのくらしの中で使われてその中で完成していくという。きっと私のあまり丁寧じゃない暮らしの中で、器たちはガシガシと使われながら欠けたり傷ついたりしながら、完成に近づいていくんだと思う。

岡崎の新たなホットスポット

今年の4月、岡崎にTOKINOHAさんが新たな店舗を作った。それが〈時の端(ときのは)〉。

ここではレストラン用に作ったオーダーメイドのデッドストック(多分試作品とかも含め)を販売している。

隣には〈HITOHI〉という薪レストランがあって、そこで使っているうつわも並ぶ。奥には陶芸コーナーもあって、ここでもつくってるんだろうな。赤いラインが温かみのある生地感と相まって、めちゃくちゃ可愛い。茶色いご飯が並んでもこれ1枚あったら、食卓が一気におしゃれになりそう。

きっとここも岡崎の新名所になるんだろうな。レストランも美味しいよと佐藤さんが教えてくれた。岡崎に住む飲み仲間と行ってみよう。

HOTOKI
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京都府京都市左京区岩倉西五田町17-2