半兵衛さんから半兵衛さんへ受け継がれる伝統|【半兵衛麸】生麸ランチ「蟲養い」と洋館

清水五条の新たなランドマーク

京都に来た人をもてなすのが割と好きだ。

人に興味はないけど、家族や友人が東京から京都に遊びに来るとなると、最高の景色を見せて、最上に美味しいものを食べさせたいと思う。これもまた京都好きあるあるだと思う。
推しの良さを、一番いいところを、人に知ってほしいと心から思っている。

だから「何食べたい?」と事前に聞く。するとだいたい、おばんざいとか湯葉とか返ってくる。
でも私はそういう類のものが特段好きじゃなくて、その返信を見て「あーあ」とふんぞりかえる。
なんで誰も、ビストロとか洋食とか言ってくれないのさ。もちろんその声にお応えして、数少ないおすすめに連れていくけども。

ただその中において、「the京都」だけど好きだなあと思う数少ない京名物が、生麸だ。

京阪の清水五条駅からすぐにある南東の建物が、〈半兵衛麸〉の新たなビルだ。
以前は男性用のオーバーサイズのアパレルが入っていて、この一等地になんでこれが…と思っていた。それがコロナを経て気づいたら半兵衛麸ビルになっていて、「やるなあ」と思ったものだ。
ビルの裏に、築120年の京町家と、石造りの洋館、工房があり、それらを繋ぐように真ん中に庭園が坪庭のような形で存在している。
近くには〈ダブルツリー〉というヒルトン系列のホテルができたり、ルーフトップが気持ちいい〈ノーガホテル〉というホテルができたり、このエリアも人の動きも変わってきている。

思いを受け継いで改装された洋館

おくどさんや井戸の残る、京都で最古級と言われる京町家。
その隣には、京都タワーの設計で知られる構造家・棚橋諒が設計した、石造りの洋館が並ぶ。

隣あったこれらを2022年に改装して茶房としてリニューアルオープンしたらしい。

そして交差点のビルも半兵衛麸のビルになった。私が東京で働きながら週末に同志社のビシネススクールヘ通って死にそうになっている間に大きな変革を遂げたんだな。
でも、町家も洋館も、元々使っていた家具や照明を生かしているので、昔通っていた私たちも懐かしさを感じる。というかそのように造ってくれたデザイナーの三好さんに感謝。

洋館2階のフローリングは、改装直後の割に年季が入った印象を受ける。
それもそのはず、改装前の館の床をそのまま持ってきたのだという。三好さんによれば、傷みや汚れもあえて残してそのまま使い、大正ロマンテイストをイメージしたそう。当時社員の皆さんは驚愕して反対したそうだが、我々ファンからすればそれもまた懐かしく嬉しい一興だ。

三好さんに言われて気づいたけど、表の半兵衛麸ビルからも庭園に入っていくと、向かいの洋館のキッチン裏が丸見えだ。行ってみるとわかるけど、これはかなり綺麗に保たないといけない。店舗に立つ社員さんたちの苦労に思いを馳せつつ、こういう基本的なところが京都の長く続く企業はちゃんとしていて好きだなと思う。

トイレの手洗いを男女で高さを変えたり、三好さんのこだわりが細部に光る。ステンドグラスや照明、中国を思わせる調度品が変わらずなんともハイカラな感じで、イマドキ女子もきっと好きな大正ロマンの感じ。

今の私につながる“むしやしない”

今、洋館でいただける茶寮「むしやしない」は、大学生の時から一人で通っていた。
メニューは”京麸と京ゆばの点心コース”4400円のみ。これがまあすごく美味しいのだけど、なんせ大人気な上に営業時間が11:00~14:30という驚異的な短さで、なかなかに予約が取りにくい。でも一人なら直前でも電話をかけると運よく空いていたりした。
ここにひとり黙々と味わっているうちに、こういうものを人に紹介できる人間になりたいと思うようになっていった気もする。

”むしやしない”も京言葉。おやつというか腹ごなしの軽食みたいな。お腹の中に飼っている虫を養うという意味だ。面白い言葉だよなあ。もう若い人はあんまり言わないけど、通っていた着物教室の先生はよく言ってたのを印象的に覚えている。

このむしやしないを食べに一番よく通っていたのが多分、大学を卒業して『るるぶ』というガイドブックを作る出版社に入った頃。一人静かにむしやしないを食べる私に、落ち着いた女性のスタッフさんが話しかけてくれたのだ。
いろいろ話をしていくうちに、「実はこんな仕事をしていて…」というと、えらく喜んでくれて。頑張ってくださいねえ、いい仕事してはるねえ、と言ってくれた。

帰路の新幹線で一人窓を見ながら、強く思ったものだった。

”こういう美しくて美味しくて素敵なものを、自分の言葉で自分の周りの人に届けたい。そういう人間になりたいなあ。”

その思いが次第に増幅して私の中の多くを占めるようになっていって、いずれビジネススクールへ導かれていったように思う。

最近お気に入りの誠実なカフェ

新しいビル3階のカフェ「Cafeふふふあん」から見る鴨川は、いつも見ている丸太町橋からの鴨川とも違って、でもこれもまたとても良い。夏は日差しが強くてカウンター席はちょっと眩しすぎるのだけど、ここはなかなか贅沢な席だ。

京都中に溢れるスタバの雰囲気と物音が苦手で仕事ができない私は、鴨川が見えて仕事ができる場所をいつ何時も探し求めている。

そもそも人がいる空間で仕事に集中できない質なので、そこにいってじっくり仕事をするというより、出先でちょっとPCが開ける場所、というニュアンス。その中において四条大橋のドトール3階席とココはとても良い。あとは鴨川は見えないけど東山三条にあるマックも開放感があって交差点の眺めが良い。

木屋町の方には観光客の足元を見た変なカフェが乱立している印象だけど、ここは良心的だし高さもあるので北山まで見通しもいい。椅子も机も広々としているし、窓際のソファー席なんかも沈みたくなる快適さ。

ふふふあんのお気に入りは、夏のかき氷。灼熱の太陽のもと、キラキラ光る鴨川の水面を眺めながらいただく、キーンと冷えたかき氷。
食べ飽きた頃に、何個かはいった生麸がむちむちした歯応えで趣向を変えてくれて、最後まで美味しい。

独立して京都に引っ越して初めての夏、身の回りのあまねく様々なことに不安を感じながら一人頬張ったかき氷の味を、今も覚えている。

京都狂いの私からすると、真夏はじりじりとした痛いほどの日差しさえちょっと愛おしい。「ああ京都の夏だな」と思えるんだ。とはいえ最近の夏は、どうにもこうにも暑い。日差しが鬱陶しくなる時もある。でも、かき氷を食べながら浴びる日差しは、愛おしかった。あの日差しを美しいと思った。

ふふふあんに行かれた方は、注文した人だけがオーダーできる生麸食べ比べは是非ともオーダーして欲しい。麸もちぜんざいはあったかいのも冷たいのもいい。

個人的マストバイ

せっかくだから買えるおすすめも。早速変化球で恐縮だが、お気に入りは〈精進生麸〉の山椒バージョン。他にも生姜やごまの味があるけど、山椒バージョンはまんまるの実山椒が入っていて、ピリッとしていて、ご飯にもお酒のアテにもなる。

にしても京都は本当に山椒の使い方がうまいと思いません?もうね、実山椒が大好きなんですよ。母親にお願いして山椒の漬けたのを作ってもらうくらい。
最近のちりめん山椒は、ちりめんばっかりで山椒の割合が少ないと思う。柿の種のピーナッツくらいの割合で入れて欲しいのに。でもここの精進生麸は山椒もしっかり入っていて満足度高め。昨今の需要に応えたちっこいのもある。

肝心の生麸は、胡麻麸が結構好き。時々開催される半兵衛麸さんの感謝祭では1階で”出来立て生麸試食”というとんでもなく幸せな機会があって、あのお盆前の夏の日もそうだった。またいつか開催されることがあったらみなさんにぜひ訪れてほしいし、その時にやってる焼き麩詰め放題もごっつ楽しい。

以前、京都の私の好きなものを集めた「スナックりさ」という一夜限りの飲み屋をやった。ビアラボのクラフトビール、リンデンバームのシャルキュトリー、豆政の豆菓子など私の好きな京都のものを集めて、バルケッタの小林さんからは鴨胸肉生ハムを譲ってもらった。

そして、半兵衛麸さんからは、精進生麸に加えて、麸饅頭を振る舞った。サラサラのこし餡がさっぱりしていて、とぅるんとした舌触り。

年下の男の子が、「ぼく麸饅頭めっちゃすきやねん」といってオーダーしてくれたのも嬉しかった。この味をもっともっと多くの人に知ってほしいんだなあ。期間限定で抹茶餡とか、抹茶をまぶした5月限定の「麸まん抹茶」とかもある。

紅葉や梅、銀杏の季節の生麩も綺麗だし、銀杏やらゆり根が入った利休坊の贅沢感、手毬を模った麸の一本一本の筋がまあ美しいこと美しいこと。ここはいつ行っても季節を感じて楽しいから困る。あと個人的には休憩できるスペースも好き。たくさん購入して梱包に時間がかかる時にふっとお茶を出してくださるところも大好き。

半兵衛さんから半兵衛さんへの歴史

半兵衛麸の創業は元禄2年(1689年)。
初代半兵衛さんが江戸中期に大膳亮という御所の食事を司る職、食料を収めるような仕事を務めていたそう。

麸や湯葉が中国から日本に伝わったのは室町時代。当時はまだ宮中やお寺さんでしか食されていなかった麸の製法を学んで、京の市中で「萬屋半兵衛」として商いを始めたことが起点だ。そして今もなお、宮中に麸をお納めしている。

そもそも、生麸が小麦粉でできているのを知らない人も多い気がする。小麦粉を水で練って寝かせて、水の中でもみ洗いをするとデンプンが流れていって、残ったのが小麦タンパク。それにもち粉を加えて茹でたり蒸したりすると生麩になるし、小麦粉を加えて釜で焼くと焼き麩になる。
豆腐や湯葉は大豆からできているイメージがあるから、その辺となんとなくいっしょくたにされているような。原材料が違いますよ。かくいう私も最近知りました。

昔は足で踏んでこねてつくった生麸だが、天皇様にお納めするものを踏むわけにはいかないのでそのためのお道具があったそうな。また生麸を成型する際に用いる木の枠板も、一般に使うものとは違う、絶妙なサイズなんだそう(これ以上は教えてもらえなかった)。
年に一度しか使わない大切なお道具は、町家1階の待合室横にある展示スペースに飾ってある。

ご当主の玉置剛社長は十二代目、理系出身のエンジニアで別の仕事をしていた婿養子さんだ。
背丈もすらっとしていて、着物を纏う姿は颯爽としていてめちゃくちゃかっこいい。聞けば、半兵衛麸の長い歴史の中でも婿養子が3割程度を占めるという。これが潰れない企業の経営の秘密か。なお皆、ご当主になる際にお名前を「半兵衛」さんにするらしい。

「不易流行」。伝統と革新

半兵衛麸さんで教えてもらった食べ方で気に入っているのが、生麩にチーズを乗せてパプリカを乗せるピザ風。「麸=和」のイメージを覆す、ワインのアテにもぴったりな逸品だ。色合いも綺麗で、人が来た時に出しても喜ばれるし、チーズ好きの私は今、あの生麸に合うチーズを探している最中だ。

こうやって今を生きる私たちの生活に馴染む麸のあり方を模索されていて、こういうところからも、京都の「伝統と革新」という、もう手垢まみれに使い古されたけれど代替の効かない言葉に込められたものを感じる。

半兵衛麸の家訓は「不易流行」。不易は変わらないもの、流行は移り変わるもの。本質を変えず、時代の流れに合わせて変えるべきところは変えていく。今も輝いている京都の伝統産業や文化にはこれが共通していると思う。文化の芯を壊さず守りながら、でも時代に合わせて、その時の人々の暮らしや価値観に合わせて柔軟に、価値のあるものを提供している。別に古いものじゃなくて、その時どきにちゃんと形やあり方を変えながら、でも軸はブラさないで、今もあり続けている。

言うはやすし。その大変さ、難しさよ。
これがもう私がビジネススクールでずっと悩んでいたこと。

同志社ビジネススクールには、京都の伝統産業を守っていく、そのためにビジネスとして成り立たせる経営手法を学ぶ、という珍しいカリキュラムがあり、私もそこに惹かれて入学した。卒業した今も私のテーマでもある。伝統や文化をいかに現代の私たちにあうように、価値がある形にしていくか。半兵衛麸さんが頑張っている様を見ると、私も頑張らねばと思う。

そして同時に、こうした方々やつくられる美しいものを、人に伝えて守っていける人間になりたい、ちゃんとここにお金が落ちて続けていける仕組みを作る一端を担いたいと強く思う。私が京都に必要とされる人間になりたいと思うのもまた、こういう気持ちに由来するのだろう。

半兵衛麸さんが「老舗」という言葉を嫌い、「しんみせ」という言葉を使い、真心や誠実さを大切にしている。老いた古めかしい会社になってはいけない、商売で社会に貢献するという強い気概を感じる。
半兵衛麸さんを紹介するとき、もうどう考えても老舗だから「12代続く京都の老舗」って紹介したいけど、多分許されない。というか怖くて原稿を見せられない。

今も続く梅岩の石学

長い歴史を持つ半兵衛だが、石田梅岩の石学を三代目半兵衛(三十郎さん)が大事にしたことに基づき、いまもその精神が脈々と引き継がれている。

石田梅岩は江戸時代に商人の哲学「石門心学」をとなえた人。『都鄙問答』は日本史で習った人も多かろう。
あの時は「商人哲学」なるものがよくわからなかったけど、京都のまちは本当に、商人の街だと思う。これまで「お商売させてもろてる」という言葉を、どれだけの京都人から聞いてきたろう。

町家1階の展示スペースはこれまた大正ロマンぽい家具が充実してるのだけど、なんと『都鄙問答』の実物がそれとなく飾ってある。そもそもこういったお宝を、誰でも自由に見学できるところも半兵衛麸さんのポリシーを感じずにはいられない。

「不易流行」と並ぶ半兵衛麸のもう一つの家訓が、「先義後利」。義を先にして利を後にする者は栄えるという意だ。義、つまり正しい人の道を優先し、人様の役に立つ商売をする。それによって得た利益を世の中のために使う。それこそが正しい商いの道だ、と。

ご当主が引く梅岩の歌を紹介したい。

風呂炊きの 我が身は煤に 汚れても 人の垢をば 流さんものかな

どうです。もうこれ以上は、私の言葉なんて不要でしょう。

私は半兵衛麸の社員さんと仕事でご一緒させていただくことが多いのだけど、社員のお一人お一人が本当に誠実で気持ちいい。梅岩から引き継がれた企業理念が社内にしっかり染み渡っているのだなと感じさせる。そういうところにもきちんと真っ当な経営をしていこうという信念を感じて、しみじみと好きなのです。

季節を味わう、食事を楽しむということ

おくどさんの脇、庭園の手前(入り方によっては奥)に布袋さんがいる。そこには「お辨當博物館」なるものもある。ここは半兵衛麸の利用者でなくても見学ができ、これもまた梅岩らしさを感じざるをえない。

ここでは、さまざまに使われた御弁当箱が展示されており、並ぶ絵巻にはお弁当箱を持って花見や宴を楽しむ人が描かれる。

螺の桜、金を施した贅沢な器、夏の涼しげな籠…。
古の人たちは、こうやって、食べることを慈しんできた。ただ食べるんじゃない、どう調理するか、どんなうつわに盛り付けるか、何をみながら、どんなふうにいただくか。

お腹を満たすためならそれはただの餌。食文化という言葉の「文化」の部分が、ここに来るとよく見える。丁寧に作られて、心を込めてお手入れされてきた、うちわたち。
消えゆく食の文化を伝承していきたいという思いから、半兵衛麸さんはこのお辨當箱たちを私たちに見せてくれている。

鴨川でピクニックする私たちと変わらないDNA。

一方で変わりつつあるもの。

私はこういう器に宿る人間本来の心の美しさを、大事に大事に抱きしめていきたい。
これからも半兵衛麸さんのファンとして、サポーターとして、声を大にして応援していきたいと思う。

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半兵衛麸へ

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