荒神橋の冬は本当に冬|【荒神口】水墨画のような北山と時雨、デルタを望む

鴨川の股、出町のデルタをのぞむ

鴨川というとつい、春の桜とか初夏の光の美しさとかを思い出しちゃうけど、冬は冬でこれまた良かったりする。
永田和宏の歌をひこう。

荒神橋より 北を見るとき 鴨川の 股のあたりを 冬時雨過ぐ

鴨川の股といえば言わずもがな、出町のデルタだ。デルタは、英語で中洲を指す。かつては「糺(ただす)河原」と呼ばれていた。

この歌は、ちゃんと冬の歌の匂いがする。

今出川と丸太町の真ん中、荒神さん

バスで鴨川や御所らへん縦に動く時、荒神口という名前を見たことはないだろうか。
そこにかかる荒神橋という。荒ぶる神の橋。すごい名前だ。

その由来は、付近にある京都七福神の一つ、清荒神(きよしこうじん)護浄院にある。火の守護神で、「荒神さん」とも呼ばれている。確かに荒ぶりそうだな。
にしても京都はなんでも「〇〇さん」になるなあ。

鴨川で2番目に古い橋

「荒神口」は京の七坂の一つ。平安以前から滋賀につながる山中越の起点になっていた。
かつて荒神橋の東側には道長が作った法成寺という大寺院があり、「法成寺河原」とも呼ばれたらしい。阿弥陀堂は、中川御堂とも呼ばれる。

江戸時代は京の七口の関所的な橋として、当時は簡単な仮橋が架けられていたそう。
荒神橋はその後幕末に天皇が御所から鴨川の東側へ避難する時のために造られた橋で、「御幸橋」とも呼ばれたそうな。孝明天皇は、御所の火災により下鴨神社に避難したという。

その後、1914年に今の鉄筋コンクリート製の橋に架け替えられた。ほとんどの橋が流失した1935年の洪水でも、荒神橋は無事だったらしい。京都のこの辺りでは七条大橋の次に古いそうな。
なんでもなさそうな橋が、掘り返せば実はとんでもない歴史を持っているから京都は面白い。

短い短い京都の冬

私にはひっそりしたルールがあって、冬というのは12月21日、冬至までと定めている。
この日が1年で最も夜が長い日。日に日に暗くなるのが早くなって、さすがにちょっと寂しい。

でもこの日を超えたら、もう1日ごとに夜が短く、昼が長くなっていく。

そう、春だ。立春の2月4日前でも、冬至を過ぎるともう日に日に春に近づいてると思ってる。

厳密に高らかに春をうたうのは立春の2月4日から。今年は暦の関係で珍しく2月3日だったけど、基本は2月4日だ。
雪も降る寒いときでも、光が1日ごとに春の明るさをはらんでいく気がする。
梅が次第に咲き綻んだり、鴨川に注ぐ光や木造建築にあたる光が柔らかくなっていって、春を感じさせてくれる。

京都にいると、春の訪れが早い。

一方で、紅葉が散り切るまでは秋という認識でいる。
去年は12月21日くらいまで建仁寺の紅葉が残っていて、もう私の中では冬というものがほぼ存在しなかった。

・・・というくらいには私の京都の冬は短いのだけど、冒頭の歌は流石に冬の歌だなあとしみじみする。

山頂につくられたる地平線

ここから北を望んだ時の鴨川はまた本当にいい。丸太町橋と同じくらい、良い。
でもあっちの方がアクセスがいいからつい丸太町橋に行ってしまう。純粋に景色で比較したらもしかしたらこちらの方がいいのかもしれない。

雨が降った日、そして冬は特に、北山の山並みがぼんやりと影になって、水墨画みたいになる。手前が濃くて、奥にいくにつれて薄くなって山の端(やまのは)がぼやぼやして、すごく、こう、美しい。
生物学者の今西錦司はこれを「山頂によってつくられたる地平線」といった。この緩やかな平らな線を、まあうまく表現したものです。

デルタだけじゃない、市民の憩いの場所

このあたりは多種多様なベンチもあって川縁も広くて気持ちがいい。のほほんとした季節ならピクニックをする家族や京大・同志社らしき学生でも賑わう。
亀形やら箱形やらの飛び石も並んで、夏になれば子供達の水遊び場にもなる。

再現された江戸時代の車道の跡

江戸時代、鴨川に架かる仮橋は、当初は板を渡した簡単なものだった。そのため、重たい牛車は河原中の「車道(くるまみち、牛道)」を渡っていた。

車道には、「車石(くるまいし、輪形石)」が敷かれ、石にはレール状の2本の溝が刻まれていた。牛車の車輪はこの溝に沿って通行することでぬかるむことも沈むこともなく、重い荷を効率よく運ぶことができたらしい。西側の河原にはそれが再現された跡がある。

カルガモの整列

12月の時雨がかかった日、カルガモの親子たちが水遊びしたり遊歩道を歩いたり思い思いに自由に過ごしていた。

並んで渡っていく5匹。あまりに可愛くて寒さを耐えながらじっと見ていたら、向かいからおじいちゃんの自転車が来た。
おじいちゃんが止まってくれると思ったら全然止まってくれなくて、カルガモたちはピューっと逃げ飛んでしまった。
思わず私は「ああっ!」と声を出してしまった。

それにおじいちゃんがびっくりした顔をした。
私は人間より動物に優しい人間かもしれない、おじいちゃんごめんなさい。

真冬の景色に春を見出す古の心

それにしても京都にいると、どうも真冬の中にも春の気配を感じてしまって、勝手に幸せな気持ちになってしまうのが不思議なもので。私は本当に幸せな生き物だとつくづく思う。
でも、真冬の中にも春を感じさせるのは、いにしえからの習いの気がする。

冬ながら 空より花の 散りくるは 雲のあなたは 春にやあるらむ

意味は、「冬なのに空から花が降ってくるのは、雲の向こう側は春なのだろうか」といった感じ。空から降ってくる雪を花に見立てている。この見立ての感性も好きだし、真冬の中にも春の気配を感じ取ろうとする感覚と情緒の豊かさ。なんというか、こう、能天気な感じというか。幸せな感じ。そういう幸せな感じを、京都にいると当時の人と同じように感じられて、胸がキュウっとなる。

過ぎた夏に想いを馳せて

もう一つ、西村尚の時雨の歌を。西村尚は、蹴鞠(今でいうサッカー)で有名な白峯神宮の宮司だ。これも荒神橋や丸太町橋あたりから見るとよくわかる冬景色

此処までは 濡らさぬ時雨 はるかにて 北山杉に 降る音きこゆ

こちらの方にはまだこない時雨が降って、北山杉と濡らしている。あたりの静けさ、なんとなくひんやりした空気が伝わってくる。しんしん、という言葉が似合いそうだ。わからないけど、私はなんとなく冬の匂いを感じた。

鴨川から北を望み、凍えながら呟く。
冬だって夏だって、この街は、この川は、いい。
過ぎた反対側の季節を思いながら、またいずれ来るあの焦げ付くような夏を恋しくも思う。

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